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常にプロアクティブであること

私たちは生来、問題が起きてから対応する(=リアクティブな)傾向があります。それは、重要でない事に対処する際にエネルギーをあまり使わないのに役立つし、自分がまったく能力を持ち合わしていない事に対処している場合には、この方がより良い結果をもたらすかもしれません。ただし、それはプロジェクトには当てはまりません。プロジェクトにおいては先を見越して積極的(=プロアクティブ)に行動することでより良い結果を得ることができます。

例: 計画

もし新しい場所に車で行きたいのに遅刻している場合、「時間を節約する」ためにすぐさま車に乗り込み出発し、何か問題が発生したときにそれに対処するでしょう。一方、プロアクティブなアプローチでは、まず最初に時間をかけ、交通状況や起こりうる事故や通行止めを考慮した上で、最短ルートで行けるようにナビゲーション・システムをセットし、それから車を出発させます。そうすることで、後に起こり得る問題を避けて、結果として時間を節約することができます。

一部の人がアジャイルプロジェクトについて抱く印象とは対照的に、計画は常に必要であり、アジャイルとは計画の種類と詳細の度合いのことを言っているに過ぎません。プロアクティブアプローチとは、実行する前に計画を立てることです。

この諺を胸に刻んでおきましょう。「木を切り倒すのに6時間くれたら、最初の4時間は斧を研ぐのに費やすだろう」

予測型のプロジェクトであるならば、もしあなたが木を切り倒すことに確信を持っているならば、斧を研ぐのに4時間を費やすかもしれない。アジャイルプロジェクトであるならば、木を切り倒すのか、折れた枝を集めるのか、芝を刈り取るのか、石炭を採掘するのか、それとも他のことをするのか、まだよくわからない。とはいえ、それら全てについて大まかな準備(最寄りの金物店の場所を知ること)をしておくこと必要であり、特定の解決策に集中する段階になった時には、具体的な準備(斧を研ぐ)が必要となります。これが計画を立てるということなのです

例: 計画の計画を立てる

プロジェクトをどのように実行するかを計画することは、プロアクティブなアプローチとなります。さらには、実行の計画をどのように計画するかで、よりプロアクティブとなります。PMBOK®ガイドのマネジメントプラン、PRINCE2®のマネジメントストラテジー、DSDM®のアプローチなどが、まさにこれにあたります。

例: 継続的な計画

現実が計画と一致することは稀であり、それは構わないことです。ただし、計画が現実的かつ実践的であり続けるように、継続的に計画を適応させていかなければなりません。それは、問題に直面してからではなく、その修正が必要と分かった段階ですぐに行われるすべきです。それがプロアクティブなアプローチです。

例: リスク管理

不確実な出来事に直面したとき、何が起こるか様子を見てから対応するのではなく、発生の可能性と影響度合いを考え、対応を検討し、可能なものはそれが起こる前に何かしらの策を講じる。このリスクマネジメントの概念こそが、プロアクティブであることに基づいているのです。

私たちがプロジェクトで行うことは重大なものであり、時として人の命に関わることがあることに留意しましょう。

例: 役割と責任を明確にする

役割と責任を明確にしないままプロジェクトチームのメンバーに仕事を任せても、遅かれ早かれそれぞれの役割と責任の形づいてきます。ただし、このやり方は高くつき、結局うまくいかなくなることが多いでしょう。プロアクティブなアプローチでは、早い段階でそれら役割と責任を定義し、必要に応じて変化させていきます。そうすることで、誰もが働きやすくなり、誰が何をするかを決めるために時間とエネルギーを浪費する代わりに、何かを生み出すことに集中できるようになります。

役割の数や種類は、プロジェクトのタイプや規模によります。スクラムにおけるシンプルな定義もあれば、P3.expressのようなほどほどの定義、あるいはDSDM®PRINCE2®のような包括的な定義もあります。ただし、これらの手法における役割の説明は、あくまでもマネジメント活動に関するものです。よって、テクニカルな側面についても、常に役割の説明を加える必要があることを忘れないでください。

例: 利用可能な選択肢

プロジェクトを早期に終了すべきか、継続すべきか。

たとえそのような質問であっても、選択肢が本当に2つしかないというケースはほとんどありません。プロアクティブなアプローチをとり、決断を下す前にはすべての選択肢を検討する必要があります。もしかしたら、プロジェクトのスコープを調整できるかもしれないし、何か別のことが明らかになるまで一時中断するのがよいかもしれない、あるいはプロジェクトのアプローチを変えられるかもしれない(アウトソーシングなど)、など。

例: クリティカルシンキング

私たちは皆、たくさんの偏見を持っていて、それは一方では生き残るために役に立ち、また一方では私たちを惑わし誤った決断を引き起こします。プロジェクトに関する重要な決断をするときは、しばらく立ち止まって、問題を引き起こす前に、決断に影響を与え得るあらゆるバイアスの注意を払うのが最善です。

参考文献として、ウィキペディアの認知バイアスのリスト(英語のみ) https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_cognitive_biases

より良い決断をするために使える意思決定のフレームワークというものがあります。最初のうちは、それらを使うことに気を取られ、煩わしささえ感じるかもしれませんが、すぐに慣れ、あまり意識することなく、うまく活用できるようになるでしょう。

例: 透明性

私たちは、プロジェクトが遅れたり、その他の問題を抱えたりすることを好まないでしょう。だからといって、それを隠すべきではありません。透明性を保つべきです。なぜなら、ステークホルダーの中にはあなたを助けてくれる人もいるかもしれません。また、遅かれ早かれステークホルダーはその問題とその結果について知ることになり、中には早期の行動(例えば、ネガティブな結果を受け入れること)を取る必要がある人もいるからです。

例: 効果的なコミュニケーション

ステークホルダーにレポートを送っても、何もフィードバックが返ってこないというケースが多くあるかもしれません。あなたは、否定的なフィードバックが返ってこないから、全てがうまくいっていると思うかもしれませんが、そうとも限りません。ステークホルダーが本当のレポートを読んでいるかをプロアクティブに確認し、必要であればコミュニケーションのやり方を調整する必要があるでしょう。さもなければ、隠れた問題が後々になって深刻な問題を引き起こし、もうその時点では解決が困難となる可能性があります。

例: 責任を取る

悪い結果を他人のせいにするのは簡単でしょう。例えば、組織から全権を与えられてプロジェクトのすべてを自由に変更し、完璧にやりたい。しかし、そのような権限は与えられず、その結果プロジェクトが失敗してしまったとします。これはプロアクティブなアプローチではありません。

プロアクティブなアプローチとは、責任を負い、制約の中でできる限りの全てをすることです。組織があなたを全面的に信頼し、良い結果を期待して、あなたにすべてを委ねるということは期待できないでしょう。特にその組織がこれまで多くのプロジェクトの失敗を見てきたならば尚更です。あなたがやらなければならないのは、与えられた制約の中でまずは小さな改善を行い、その結果少しの信頼を掴み取り、リソースを少し増やし、制約に対する寛容さも少し増やし、そこからもう少し大きな改善を行い、最適な目標に達するまでそれを続けることなのです。


翻訳者: Takashi Izumoto


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